レイクウッドの森

アルバートファンによる不朽の名作「キャンディ・キャンディ」の二次創作ブログです。

こんにちは、「キャンディ~レイクウッドの森~」の管理人・さらです。

旧サイト「キャンディ~レイクウッドの森~」のサーバーのサービス停止により、こちらにて新たにブログを開設することになりました管理人のさらです。

初めましての方もお久しぶりの方もいらっしゃると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。

 

何はさておき、まずは陳謝を!

長らく、本当に長らく旧サイトを放置し、大変申し訳ありませんでした。サーバーのサービス停止の知らせを受けた時、本当はこのままフェードアウトしようかと思いました。

が、今でも更新停止の旧サイトを訪れてくださる方もおられ、せめて作品だけはネット上に残していきたいなという思いに変わり、このブログを開設するに至りました。

 

当面は少しづつ旧サイトにあった作品をこちらに再掲していきたいなと考えています。

(再掲にあたって少々手直しをするかもしれませんが、ストーリー上の流れに変化はありませんのでご心配なく。)

あくまでも旧サイトの作品の再掲です。

新作はタイトルにその旨入れますので、どうかお間違えのないようによろしくお願いします。

 それでは、ここが少しでも皆様の憩いの場となりますことを願って・・。

 

このブログはあくまでも管理人さら個人がファンの立場から運営しているものであり、先生方ならびに関係者様各位とは一切の関係はございません。
当ブログの文章・画像等の無断転載・配布は固くお断り致します。
(二次創作における著作権は放棄していません。)

愛 の 夢 最終話

いよいよキャンディの退院の日がやってきた。
キャンディの気持ちを思いやり、アルバートの計らいで迎えは誰も来ていない。
「マーチン先生、ハウエル先生。お世話になり、ありがとうございました。」
キャンディとアルバートは深々と頭を下げた。
「キャンディ。もう患者としては来ないでくれよ。わしは寿命が縮まった。但し、看護婦としてはいつでも大歓迎じゃ。」
マーチン先生はそう言うと「ワハハ。」と大きく笑った。


ハッピー診療所が次第に遠ざかって行く。
二人はポニーの丘に向かった。

もうほとんどの雪が融け、あちらこちらの地面から早咲きの草花が咲いていた。
「もう、すっかり春ね。」
嬉しそうにキャンディがその草花にそっと触れる。
「ああ、長く寒い冬はもう終わったんだ。僕達にとってもね。君の待ち望んだ春がやってきた。来年の春は3人でここに来よう。」
アルバートが優しくキャンディの肩を抱く。
そんな二人をポニー先生とレイン先生は遠くから優しく見守り続けていた。

 

シカゴ。
もう、ずいぶん長い間留守にしていたような気がする。
キャンディが去った時、再び戻ってきた今。
この街は何も変わってはいない。
街の喧騒も、そこで生きる人々の生活も・・・。
だが、キャンディにとっては確かに何かが変った。


そう。もう彼女に恐れはなかった。
絶えず忍び寄っていた幸せを失うことへの恐れ・・・。
だが、彼女はもう一人ではなかった。
アルバートと二人でならどんなことも乗り越えられる。
今はそう確信していた。


そうしてキャンディはしっかりと顔を上げ、アードレーの家に入っていった。
アードレー家の女主人として再び歩んでいくために・・・。

 

「旦那様、奥様、お帰りなさいませ。奥様にお手紙が届いております。」
邸内に入ると執事が手紙を持ってやって来た。
他の人間は同じくアルバートの計らいで大げさな出迎えを控えている。
キャンディはその手紙を受け取り、差出人を見た。
そこに書かれてあったのは
「テリィ・・・。」
アルバートはその手紙を一瞥したが、やがて「かまわないよ。ゆっくり読むといい。」
と言い残し、そっとその場を離れようとした。
アルバート、待って!」
キャンディの声がアルバートを呼び止める。
「あなたも・・一緒に読んで欲しいの。」

 

~テリィの手紙~

 

親愛なるキャンディス・W・アードレー様


できればこの手紙はアルバートさん・・いや、ウィリアム・A・アードレー氏と一緒に
読んで欲しい。


今度のことでは君とアードレー氏には多大な迷惑をかけて本当に申し訳ないと思っている。
今さら何を書いても言い訳になるので、率直な今の気持ちだけを伝える。


俺は君を愛している。
その気持ちは過去も現在も未来も変らないだろう。
だが君は違う。
あの時、君が叫んだ言葉が耳から離れないよ。
アルバートを愛している。」ってね。
君にとって俺はもう過去の思い出になったのだと思い知らされた。
ならば、俺もそろそろ決断しなきゃならないようだ。


何度でも言う。
俺は君を愛している。
けれど、君への気持ちは永遠に心の中に封印するよ。
そして俺も自分自身の人生を歩み始める。
キャンディ。俺はスザナと結婚することにした。
長い間待たせてしまったんだ。
今度こそ彼女を幸せにしたいと、そう思っている。


彼女を幸せにできる・・・そう確信した時、君とアードレー氏をブロードウェイの一番
良い席に招待したい。
来てくれるだろうか。
今度君と会う時は舞台の上だ。
そしてその舞台を君とアードレー氏に見て欲しい。
君という同じ女性を愛した俺が、せめてアードレー氏と張り合えるだけの男だったと彼に認めてもらいたいんだ。


君たちに再び会える日を心待ちにしているよ。
どこにいても、何をしていても・・・君の幸せを心から願っている。
健康に気をつけて、元気な赤ちゃんを産んで欲しい。


           テリュース・グレアム

 


キャンディはそっと手紙を閉じた。


(テリィ。あなたも幸せに・・・。)
今、やっと二人の想いに幕が下りた。


そんなキャンディにアルバートがそっと声をかける。
「キャンディ。見せたい物があるんだ。こっちへおいで。」
彼はキャンディをサロンへと導いた。
部屋に入ると目に飛び込んで来たもの。
それは決して忘れられない、真ん中がほんのり緑がかった白い一輪のバラ。


(スウィート・キャンディ!)


「アンソニーのバラ。アルバート、これは?」
「今日君が帰ってくると知って、アーチーとアニーがレイクウッドまで取りに行って
くれたんだよ。」
「アーチーとアニーが?」
キャンディは驚いたようにそのバラを見る。
「ああ。まだ開花には早いと言ったんだけどね。もしかしたら・・と、一生懸命探したら奇跡的に一輪だけつぼみを付けていたそうだよ。きっとアンソニーが君の帰りを祝福してくれたんじゃないのかな。」
(アンソニー、そうだわ。あなたが私と赤ちゃんを助けてくれたのね。)
キャンディの目が涙で潤む。
「ところであの二人、いい雰囲気だと思うよ。君、何か言ったのかい?」
アルバートが可笑しそうに笑った。
「私はただ・・、本当に大切なものは案外すぐそばにあって、なかなか気がつかないものだと言っただけ・・。私にとってのアルバートがそうであったように。」
そう言うとそっとアルバートの胸に顔をうずめた。
そんなキャンディを彼は優しく抱きしめる。


静かな時間が流れた。


「子供は男の子か女の子かどっちだろうね。」急にアルバートが言い出した。
「さあ、どうかしら。」キャンディはクスッと笑う。
(私の坊や。あなたがパパのところへ引き戻してくれたのね。早く・・もう一度あなたに会える日を楽しみにしているわ。)


キャンディはピアノの蓋を開け、ポロン・・と鍵盤を指で弾いた。
「ねぇ、アルバート。赤ちゃんのために何か弾いてくれないかしら。」
「いいよ。何がいい?」
キャンディはニッコリ笑う。
「そうね・・・『愛の夢』を・・・。」
アルバートは微笑みながら頷くと静かに弾き始めた。


流れるような優しい、優しい旋律・・・。
それはまるで弾いているその人のように、聴く者の心を癒していった。


“ママ、もうすぐ会えるよ・・・。”


“キャンディ、僕達の夢は叶ったんだ・・・。”

 


 ~ Fin ~

 

愛 の 夢 ⑫

「・・ンディ。キャンディ。」
呼び続けるアルバート
その時キャンディの瞼がそっと開き、緑の瞳が現れた。
「キャンディ!あぁ、気がついたんだね。神よ、感謝します!」
マーチン先生とハウエルもホッとしたような顔になった。
アルバート・・。私、どうして・・。」
「いいんだ。何も考えないで・・。今は、ゆっくりとお休み。」
潤んだ目をしながらアルバートは優しくそう言った。
久し振りに見るアルバートの優しい眼差し。
何ともいえない安堵感に包まれて、キャンディは再び眠りについた。


キャンディの安らかな寝顔を見つめるアルバートの頬に一筋の涙が伝う。
それはアルバートが初めて見せる涙だった。
その涙を拭うこともせず、ずっとずっと祈りを捧げていた。
そんな姿をマーチン先生がそっと見ている。
「やっぱり彼は大した人物ですね。さすがあのアードレー家の跡取りとして育てられた
だけのことはある。」ハウエルがマーチン先生に声をかけた。
「ああ。彼は知っていたんじゃ。泣いてもどうにもならないということを。愛する者が
戻ってきたと知って、初めて涙を流し感謝の祈りを捧げているんじゃろ。アルバートくんらしいな。」
そしてマーチン先生はそっと静かに病室のドアを閉めた。


それからキャンディは日に日に元気を取り戻していった。
キャンディの驚異的な回復をマーチン先生やハウエル、そして看護婦たちは付きっきりで看病をしているアルバートの愛情のなせる業だと密かに噂していたようだ。


アルバート、お仕事は大丈夫なの?私はもう大丈夫だから、あなたはシカゴに帰ってもいいのよ。」
あんなに忙しいアルバートがもう1週間もここにいるのだ。
気にならない方がおかしい。
「仕事?今の僕にとって君と子供より大切なものはないよ。それでも仕事に戻れと言われたら、今すぐにアードレーの家を捨てるさ。」
アルバート!そんなことを言ってはいけないわ。」
思いがけない言葉にビックリしてしまう。
そんなキャンディを可笑しそうに見ながら「大丈夫だよ。必要な連絡はジョルジュと取っている。アーチーも頑張ってくれているみたいだから心配はいらないさ。」
その言葉を聞くと彼女も少しホッとした。
「アーチーがね、『総長の代わりは僕とジョルジュが出来ても、キャンディの夫は貴方しかいないんだ。』と言っていたよ。」
それは今のキャンディとアルバートにとって心に染み入る言葉だった。
「そういえばテリィがシカゴに来て、大おばさまやアードレー一族の前で本当のことを話していったそうだよ。」アルバートがさりげない素振りでそう言った。
「テリィが?」
「ああ。君とはニューヨークで別れた後、あの写真を撮られた日まで一度も会ったことはないということ。あの写真は事実だが全ては自分の紳士らしからぬ振る舞いによるものであって、君には何の非もないということ。それらを全て話して、アードレー家や君に迷惑をかけたことを謝罪したそうだ。ジョルジュが報告してくれた。」
「でも、大おばさまや皆は信じてくれたのかしら?」


テリィがシカゴにやって来た。私のために?


「その後、スコットがディルマン家を通して正式に謝罪してきたそうだよ。ディルマン家の嫡男ということで、一応話は信じてもらえたみたいだ。彼のやったことは許せないことだが、今回は僕が水に流すことにした。それでよかったかい?」
「私は・・あなたが決めたことなら何でも賛成よ。」キャンディが目を潤ませて答える。
そこには揺るぎない信頼があった。
「あはは。そんなことを言っていると、そのうちとんでもないことを言い出すかもしれないよ。それでも構わないのかい?」アルバートは悪戯っぽい顔をして笑った。
「ええ、アルバート。もちろんよ。」
「それともう一つ。その時真っ先に、大おばさまに君をアードレー家に連れ戻して欲しいと頼んだのがニールだったらしい。」
「ニールが?どうして彼が。」さすがにこれにはキャンディも驚いた。
「さあ、どうしてだろうね。君が可哀想になったのか、今回の事を仕組んだのがデイジーの兄スコットとイライザだったというのが気になったのか・・。本当のところはわからないよ。でも、一生懸命頼んでくれたらしい。」
「ニールが・・・。」
いつも意地悪をしていたニールの顔が浮かぶ。
一時はキャンディを追い回したこともあった。
策略で婚約までさせられそうになったことも・・・。
でも・・・。
不器用なだけで、心底悪い人じゃなかったのかもしれない。
いつしかキャンディはそう思えるようになっていた。


「ねぇ、アルバート。イライザはどうなるの?」
急にイライザのことが気にかかった。
アルバートはしばらくキャンディの顔を見ていたが、やがて静かに訊いた。
「君はどうしたいんだい?」
「私は・・。確かに彼女のしたことは許せないことだけど、でも彼女の不幸を願っているわけじゃないわ。彼女には今度のことをちゃんと反省して、正しい道を歩んで欲しいと思っている。」
アルバートはニッコリ微笑んだ。
「君ならそう言うと思ったよ。今回のことで僕達は危機を乗り越え、さらに深い絆で結ばれたと思っている。だから僕はもう何とも思っちゃいないよ。ただアードレー家がスキャンダルに巻き込まれたのは事実だ。僕にとってはそんなことはどうでもいい。でも一族にとってはそうはいかないだろう。アードレー家の体面を一番重んじているのは大おばさまだ。だから、イライザのことは大おばさまに一任した。もっとも、彼女のことだ。うまく大おばさまを言いくるめるんじゃないかと思うよ。」
「私もそう思うわ。」
キャンディとアルバートはクスクスと笑い合った。


しばらくして、ふいにアルバートがポケットから何かを取り出した。
「君が忘れ物をして行ったので、僕が届けに来たよ。」
アルバートが手にしているのはキャンディの瞳と同じ色の宝石。


「これは・・・。」


それはまぎれもなく手紙と共に残していったあの指輪だった。
「もう・・忘れたりしないと誓ってくれるかい?」
そして、ずいぶんと細くなってしまったキャンディの指にそっと嵌める。
アルバートはそのままナイトのようにひざまずくと、その手の甲に口付けをした。
「君を苦しめた僕を許してほしい。君が僕の手を取ってくれた時、絶対にこの手を離さないと誓ったのに。今からでも遅くはないだろうか?未来永劫、僕の愛は君のものだ。」


返事はなかった。
アルバートの指に自分の指をぎゅっと絡める。
もう・・、二度と離れないように・・・。
それが答えだった。