レイクウッドの森

アルバートファンによる不朽の名作「キャンディ・キャンディ」の二次創作ブログです。

愛 の 夢 ⑫

「・・ンディ。キャンディ。」
呼び続けるアルバート
その時キャンディの瞼がそっと開き、緑の瞳が現れた。
「キャンディ!あぁ、気がついたんだね。神よ、感謝します!」
マーチン先生とハウエルもホッとしたような顔になった。
アルバート・・。私、どうして・・。」
「いいんだ。何も考えないで・・。今は、ゆっくりとお休み。」
潤んだ目をしながらアルバートは優しくそう言った。
久し振りに見るアルバートの優しい眼差し。
何ともいえない安堵感に包まれて、キャンディは再び眠りについた。


キャンディの安らかな寝顔を見つめるアルバートの頬に一筋の涙が伝う。
それはアルバートが初めて見せる涙だった。
その涙を拭うこともせず、ずっとずっと祈りを捧げていた。
そんな姿をマーチン先生がそっと見ている。
「やっぱり彼は大した人物ですね。さすがあのアードレー家の跡取りとして育てられた
だけのことはある。」ハウエルがマーチン先生に声をかけた。
「ああ。彼は知っていたんじゃ。泣いてもどうにもならないということを。愛する者が
戻ってきたと知って、初めて涙を流し感謝の祈りを捧げているんじゃろ。アルバートくんらしいな。」
そしてマーチン先生はそっと静かに病室のドアを閉めた。


それからキャンディは日に日に元気を取り戻していった。
キャンディの驚異的な回復をマーチン先生やハウエル、そして看護婦たちは付きっきりで看病をしているアルバートの愛情のなせる業だと密かに噂していたようだ。


アルバート、お仕事は大丈夫なの?私はもう大丈夫だから、あなたはシカゴに帰ってもいいのよ。」
あんなに忙しいアルバートがもう1週間もここにいるのだ。
気にならない方がおかしい。
「仕事?今の僕にとって君と子供より大切なものはないよ。それでも仕事に戻れと言われたら、今すぐにアードレーの家を捨てるさ。」
アルバート!そんなことを言ってはいけないわ。」
思いがけない言葉にビックリしてしまう。
そんなキャンディを可笑しそうに見ながら「大丈夫だよ。必要な連絡はジョルジュと取っている。アーチーも頑張ってくれているみたいだから心配はいらないさ。」
その言葉を聞くと彼女も少しホッとした。
「アーチーがね、『総長の代わりは僕とジョルジュが出来ても、キャンディの夫は貴方しかいないんだ。』と言っていたよ。」
それは今のキャンディとアルバートにとって心に染み入る言葉だった。
「そういえばテリィがシカゴに来て、大おばさまやアードレー一族の前で本当のことを話していったそうだよ。」アルバートがさりげない素振りでそう言った。
「テリィが?」
「ああ。君とはニューヨークで別れた後、あの写真を撮られた日まで一度も会ったことはないということ。あの写真は事実だが全ては自分の紳士らしからぬ振る舞いによるものであって、君には何の非もないということ。それらを全て話して、アードレー家や君に迷惑をかけたことを謝罪したそうだ。ジョルジュが報告してくれた。」
「でも、大おばさまや皆は信じてくれたのかしら?」


テリィがシカゴにやって来た。私のために?


「その後、スコットがディルマン家を通して正式に謝罪してきたそうだよ。ディルマン家の嫡男ということで、一応話は信じてもらえたみたいだ。彼のやったことは許せないことだが、今回は僕が水に流すことにした。それでよかったかい?」
「私は・・あなたが決めたことなら何でも賛成よ。」キャンディが目を潤ませて答える。
そこには揺るぎない信頼があった。
「あはは。そんなことを言っていると、そのうちとんでもないことを言い出すかもしれないよ。それでも構わないのかい?」アルバートは悪戯っぽい顔をして笑った。
「ええ、アルバート。もちろんよ。」
「それともう一つ。その時真っ先に、大おばさまに君をアードレー家に連れ戻して欲しいと頼んだのがニールだったらしい。」
「ニールが?どうして彼が。」さすがにこれにはキャンディも驚いた。
「さあ、どうしてだろうね。君が可哀想になったのか、今回の事を仕組んだのがデイジーの兄スコットとイライザだったというのが気になったのか・・。本当のところはわからないよ。でも、一生懸命頼んでくれたらしい。」
「ニールが・・・。」
いつも意地悪をしていたニールの顔が浮かぶ。
一時はキャンディを追い回したこともあった。
策略で婚約までさせられそうになったことも・・・。
でも・・・。
不器用なだけで、心底悪い人じゃなかったのかもしれない。
いつしかキャンディはそう思えるようになっていた。


「ねぇ、アルバート。イライザはどうなるの?」
急にイライザのことが気にかかった。
アルバートはしばらくキャンディの顔を見ていたが、やがて静かに訊いた。
「君はどうしたいんだい?」
「私は・・。確かに彼女のしたことは許せないことだけど、でも彼女の不幸を願っているわけじゃないわ。彼女には今度のことをちゃんと反省して、正しい道を歩んで欲しいと思っている。」
アルバートはニッコリ微笑んだ。
「君ならそう言うと思ったよ。今回のことで僕達は危機を乗り越え、さらに深い絆で結ばれたと思っている。だから僕はもう何とも思っちゃいないよ。ただアードレー家がスキャンダルに巻き込まれたのは事実だ。僕にとってはそんなことはどうでもいい。でも一族にとってはそうはいかないだろう。アードレー家の体面を一番重んじているのは大おばさまだ。だから、イライザのことは大おばさまに一任した。もっとも、彼女のことだ。うまく大おばさまを言いくるめるんじゃないかと思うよ。」
「私もそう思うわ。」
キャンディとアルバートはクスクスと笑い合った。


しばらくして、ふいにアルバートがポケットから何かを取り出した。
「君が忘れ物をして行ったので、僕が届けに来たよ。」
アルバートが手にしているのはキャンディの瞳と同じ色の宝石。


「これは・・・。」


それはまぎれもなく手紙と共に残していったあの指輪だった。
「もう・・忘れたりしないと誓ってくれるかい?」
そして、ずいぶんと細くなってしまったキャンディの指にそっと嵌める。
アルバートはそのままナイトのようにひざまずくと、その手の甲に口付けをした。
「君を苦しめた僕を許してほしい。君が僕の手を取ってくれた時、絶対にこの手を離さないと誓ったのに。今からでも遅くはないだろうか?未来永劫、僕の愛は君のものだ。」


返事はなかった。
アルバートの指に自分の指をぎゅっと絡める。
もう・・、二度と離れないように・・・。
それが答えだった。