レイクウッドの森

アルバートファンによる不朽の名作「キャンディ・キャンディ」の二次創作ブログです。

愛 の 夢 最終話

いよいよキャンディの退院の日がやってきた。
キャンディの気持ちを思いやり、アルバートの計らいで迎えは誰も来ていない。
「マーチン先生、ハウエル先生。お世話になり、ありがとうございました。」
キャンディとアルバートは深々と頭を下げた。
「キャンディ。もう患者としては来ないでくれよ。わしは寿命が縮まった。但し、看護婦としてはいつでも大歓迎じゃ。」
マーチン先生はそう言うと「ワハハ。」と大きく笑った。


ハッピー診療所が次第に遠ざかって行く。
二人はポニーの丘に向かった。

もうほとんどの雪が融け、あちらこちらの地面から早咲きの草花が咲いていた。
「もう、すっかり春ね。」
嬉しそうにキャンディがその草花にそっと触れる。
「ああ、長く寒い冬はもう終わったんだ。僕達にとってもね。君の待ち望んだ春がやってきた。来年の春は3人でここに来よう。」
アルバートが優しくキャンディの肩を抱く。
そんな二人をポニー先生とレイン先生は遠くから優しく見守り続けていた。

 

シカゴ。
もう、ずいぶん長い間留守にしていたような気がする。
キャンディが去った時、再び戻ってきた今。
この街は何も変わってはいない。
街の喧騒も、そこで生きる人々の生活も・・・。
だが、キャンディにとっては確かに何かが変った。


そう。もう彼女に恐れはなかった。
絶えず忍び寄っていた幸せを失うことへの恐れ・・・。
だが、彼女はもう一人ではなかった。
アルバートと二人でならどんなことも乗り越えられる。
今はそう確信していた。


そうしてキャンディはしっかりと顔を上げ、アードレーの家に入っていった。
アードレー家の女主人として再び歩んでいくために・・・。

 

「旦那様、奥様、お帰りなさいませ。奥様にお手紙が届いております。」
邸内に入ると執事が手紙を持ってやって来た。
他の人間は同じくアルバートの計らいで大げさな出迎えを控えている。
キャンディはその手紙を受け取り、差出人を見た。
そこに書かれてあったのは
「テリィ・・・。」
アルバートはその手紙を一瞥したが、やがて「かまわないよ。ゆっくり読むといい。」
と言い残し、そっとその場を離れようとした。
アルバート、待って!」
キャンディの声がアルバートを呼び止める。
「あなたも・・一緒に読んで欲しいの。」

 

~テリィの手紙~

 

親愛なるキャンディス・W・アードレー様


できればこの手紙はアルバートさん・・いや、ウィリアム・A・アードレー氏と一緒に
読んで欲しい。


今度のことでは君とアードレー氏には多大な迷惑をかけて本当に申し訳ないと思っている。
今さら何を書いても言い訳になるので、率直な今の気持ちだけを伝える。


俺は君を愛している。
その気持ちは過去も現在も未来も変らないだろう。
だが君は違う。
あの時、君が叫んだ言葉が耳から離れないよ。
アルバートを愛している。」ってね。
君にとって俺はもう過去の思い出になったのだと思い知らされた。
ならば、俺もそろそろ決断しなきゃならないようだ。


何度でも言う。
俺は君を愛している。
けれど、君への気持ちは永遠に心の中に封印するよ。
そして俺も自分自身の人生を歩み始める。
キャンディ。俺はスザナと結婚することにした。
長い間待たせてしまったんだ。
今度こそ彼女を幸せにしたいと、そう思っている。


彼女を幸せにできる・・・そう確信した時、君とアードレー氏をブロードウェイの一番
良い席に招待したい。
来てくれるだろうか。
今度君と会う時は舞台の上だ。
そしてその舞台を君とアードレー氏に見て欲しい。
君という同じ女性を愛した俺が、せめてアードレー氏と張り合えるだけの男だったと彼に認めてもらいたいんだ。


君たちに再び会える日を心待ちにしているよ。
どこにいても、何をしていても・・・君の幸せを心から願っている。
健康に気をつけて、元気な赤ちゃんを産んで欲しい。


           テリュース・グレアム

 


キャンディはそっと手紙を閉じた。


(テリィ。あなたも幸せに・・・。)
今、やっと二人の想いに幕が下りた。


そんなキャンディにアルバートがそっと声をかける。
「キャンディ。見せたい物があるんだ。こっちへおいで。」
彼はキャンディをサロンへと導いた。
部屋に入ると目に飛び込んで来たもの。
それは決して忘れられない、真ん中がほんのり緑がかった白い一輪のバラ。


(スウィート・キャンディ!)


「アンソニーのバラ。アルバート、これは?」
「今日君が帰ってくると知って、アーチーとアニーがレイクウッドまで取りに行って
くれたんだよ。」
「アーチーとアニーが?」
キャンディは驚いたようにそのバラを見る。
「ああ。まだ開花には早いと言ったんだけどね。もしかしたら・・と、一生懸命探したら奇跡的に一輪だけつぼみを付けていたそうだよ。きっとアンソニーが君の帰りを祝福してくれたんじゃないのかな。」
(アンソニー、そうだわ。あなたが私と赤ちゃんを助けてくれたのね。)
キャンディの目が涙で潤む。
「ところであの二人、いい雰囲気だと思うよ。君、何か言ったのかい?」
アルバートが可笑しそうに笑った。
「私はただ・・、本当に大切なものは案外すぐそばにあって、なかなか気がつかないものだと言っただけ・・。私にとってのアルバートがそうであったように。」
そう言うとそっとアルバートの胸に顔をうずめた。
そんなキャンディを彼は優しく抱きしめる。


静かな時間が流れた。


「子供は男の子か女の子かどっちだろうね。」急にアルバートが言い出した。
「さあ、どうかしら。」キャンディはクスッと笑う。
(私の坊や。あなたがパパのところへ引き戻してくれたのね。早く・・もう一度あなたに会える日を楽しみにしているわ。)


キャンディはピアノの蓋を開け、ポロン・・と鍵盤を指で弾いた。
「ねぇ、アルバート。赤ちゃんのために何か弾いてくれないかしら。」
「いいよ。何がいい?」
キャンディはニッコリ笑う。
「そうね・・・『愛の夢』を・・・。」
アルバートは微笑みながら頷くと静かに弾き始めた。


流れるような優しい、優しい旋律・・・。
それはまるで弾いているその人のように、聴く者の心を癒していった。


“ママ、もうすぐ会えるよ・・・。”


“キャンディ、僕達の夢は叶ったんだ・・・。”

 


 ~ Fin ~