レイクウッドの森

アルバートファンによる不朽の名作「キャンディ・キャンディ」の二次創作ブログです。

愛 の 夢 ⑥

「お帰りなさい、アルバート。」キャンディはアルバートにそっとキスをした。
そんなキャンディを軽く抱きしめながら

「ただいま、キャンディ。会いたかったよ。こっちへ来てごらん。お土産があるんだ。」
そう言って彼が差し出したのは、可愛いデザインのエメラルドの指輪だった。

「まぁ、なんて素敵!とても可愛いわ。アルバートが選んでくれたの?」

「むこうで知り合った人物の中に宝石商がいてね。初めは付き合いで見てたんだが、
ふとこれが目に入って・・。」
愛しそうな目をしたアルバートの横から、ジョルジュが真面目な顔で言葉を付け足した。
「初めは違った物を薦められていたんですよ。アードレー夫人の名前に恥じない物をということで、もっと豪華な物を。でもどうしてもウィリアム様がこれがいいとおっしゃって・・。わたくしはすぐにキャンディス様の瞳の色だと気が付きましたよ。」

「ジョルジュ!余計なことは言わなくてもいいよ。」
珍しいアルバートの慌てた顔にジョルジュも笑いを噛み殺した。
(私は今、この世で一番幸せかもしれないわ。)
キャンディはアルバートとジョルジュのやり取りを見ながら、しみじみとそう感じた。

 

雑誌社では二人の記者がコソコソと何かを話していた。

「いろいろ調べてみたんだがな。なかなか面白いことが浮かんできたぜ。この二人、
以前ロンドンの聖ポール学院というところで1年ほど一緒に過しているんだ。」
「あの王立のか?過去に接点があったわけだ。」ハリーの目が輝いた。
「そういうこと。さらに面白いことにテリュースが自主退学した後、すぐにアードレー夫人も自主退学している。おかしいと思わないか?」
「自主退学?二人とも?それは妙だな。理由はわからないのか?」
「それがさすがに権威ある学院だけあってみんな口が堅いんだ。でも頑張ってもう少し調べてみるよ。」


~数日後~


「おい、ハリー。これを見てくれ。今朝届いた匿名の手紙なんだが、テリュースとアードレー夫人のことが書いてあるんだ。」
「なんだって?」
その手紙には二人の過去が詳細に書かれてあった。
馬小屋事件、そのための自主退学、スザナの事故、それにテリィが関わっていたこと。
「つまりこういうことか。二人はロンドンの聖ポール学院で出会い愛し合ったが、馬小屋での逢引を見つかり退学。その後それぞれがアメリカへ渡ってきて、テリュースは役者になりアードレー夫人キャンディスは看護婦になったが、やがて再会。再び愛し合うようになる。そんな時、テリュースを庇ったスザナの事故が起きた。責任を感じたテリュースはキャンディスと別れ、スザナの元へ。その後、キャンディスは養父であったアードレー氏との養子縁組を解消、結婚。だが、愛し合いながら引き裂かれた二人の愛は消えてはおらず再燃。どうだ!?」
「まさしく、その通りだと思う。だが、この手紙いったい誰が・・?」
「これだけ詳細に書かれてあるんだ。多分、かなり二人に近い人物だろうな。」
さすがのハリーも顔を曇らせた。
「俺達にとってはありがたいけど、これは裏切り行為だよな。」
「まぁ、いいじゃないか。これでいい記事が書けるぞ。すぐに裏を取りに行くんだ。」

 

次の週の雑誌には二人の大々的なゴシップ記事が載った。


『ストラスフォードの看板俳優テリュースと名門アードレー家総長夫人の秘められた愛!引き裂かれたその悲恋!』


大きな二人の抱擁写真と共に、そこにはそれまでの二人の詳細な過去と経緯が書かれてあった。
ご丁寧にキャンディがアルバートと結婚した後もその愛が続き、人知れず逢瀬を重ねていたとの憶測記事まで付いて・・・。


〔シカゴを牛耳る名門アードレー家の総帥も、さすがに夫人の裏切り行為には顔に泥を
塗られた気分だろう。お気持ちをお察しする。〕


半ばアルバートを揶揄するような一文でその記事は締め括られていた。

 

「ウィリアム様!」
ジョルジュが顔色を変えて部屋に入ってきた。彼が取り乱すなど、珍しいことだ。
「どうしたんだい、ジョルジュ。」
アルバートも怪訝そうな顔をし、そしてジョルジュが手にしていたゴシップ雑誌に目をやった。
「これは?」
「それが・・。ウィリアム様、申し訳ございません。こんな記事が・・。」
アルバートはジョルジュの差し出したページを凝視した。


キャンディとテリィの不倫記事。大きく載せられた二人の抱擁写真。
そしてもう一枚の写真の二人は熱い口付けを交わしていた。


彼はしばらく静かに読んでいたが、やがてそっとその雑誌をテーブルに置いた。
「ウィリアム様、本来ならわたくしがこの記事を差し止めるべきでした。こんなことになってしまって本当に申し訳ありません。」ジョルジュは深々と頭を下げたままだ。


アルバートはしばらく考え込んでいたが静かに言った。
「ジョルジュ。君のせいではないよ。出てしまったものは仕方ないだろう。それより
キャンディは?」
「はい、キャンディス様は慈善パーティよりまだ戻られておりません。ですが、もうすぐお戻りになられる予定です。」
「そうか。キャンディにはこの記事は見せないように・・・。」
「はい。ですが、もうキャンディス様の目に触れるのは時間の問題かと・・。」
「それでも・・だ。普通にしているんだ。いいね。」
「かしこまりました。」
ジョルジュはアルバートの次の言葉を待った。・・が、彼は何も言わない。
「あの・・ウィリアム様。この記事はいかがいたしましょうか。」
「放っておけばいい。」
「ですが、それではウィリアム様やキャンディス様が・・・。」
「ジョルジュ。もう下がっていいよ。」
アルバートの有無を言わさぬ言葉にジョルジュは黙って引き下がるしかなかった。

 

アルバートはじっと窓の外を見つめていた。
広大な庭。
裏には動物達が放し飼いになっている。
仕事の合間に時間を見つけると、そこでよくキャンディと過したものだ。


アルバート、見て!芽吹いているわ。こっちもよ。あぁ、もうすぐ春がやってくるのね。ポニーの丘もいっぱいの花が咲くわ。”


「キャンディ・・・。」
小さな呟きは冷たい空気の中に消えていった。