レイクウッドの森

アルバートファンによる不朽の名作「キャンディ・キャンディ」の二次創作ブログです。

愛 の 夢 ③

「じゃあ、キャンディ。行って来るよ。」
 出発を前にアルバートはキャンディの頬に軽いキスをした。
「お気をつけて行ってらっしゃい。ロサンゼルスにはどれくらい?」
「多分1週間くらいで帰れると思うよ。早く君の顔が見たいからね。急いで仕事を片付けて帰ってくるさ。」と軽くウィンクしてみせる。
キャンディも微笑みを返す。
仕事の忙しいアルバートが家を空けることは珍しいことではない。
独身の頃はあちらこちらを飛び回っていたが、キャンディと結婚してからは可能な仕事は部下に任せ、できる限りシカゴにいるようにしていた。
それでも、どうしてもアルバート自身が赴かなければならない仕事ももちろんある。

 以前より減ったとはいえ、やはり彼は多忙を極め各地を飛び回っていた。
そんな時でも出来る限り早く仕事を片付け、シカゴにとんぼ返りするアルバートを見てビジネス相手は「これがあのアードレー氏とは・・。」と苦笑せざるを得なかった。
「あんなに若くて可愛い奥さんを貰ったんだ。仕方ないさ。」とあまりのアルバートの変りように苦笑いしながらも、大抵は微笑ましく見られていた。
中には「結婚して骨抜きになった。」と揶揄する者もいたが、それでもビジネスに対する厳しい姿勢は全く変らないアルバートを見て、いつしかそんなことを言う者はいなくなった。

キャンディはアルバートの車が走り去り、その姿が見えなくなるまで見送っていた。
 邸内に入るとそこにはエルロイがいた。
「まぁ、大おばさま。お具合はいかがですか?」
 最近エルロイは神経痛を患っているのだ。
「今日は調子がいいみたいですよ。ウィリアムはもう出かけたのですか?」
「今、出かけたところです。1週間ほどで戻るそうですわ。」
「そう。ところで今度の慈善パーティのことでちょっと相談があるのだけれど・・・。」
「もちろんですわ。大おばさま。」
キャンディはエルロイに手を貸し、ゆっくりと広い廊下を歩いて行った。


~翌日~


「奥様。こちらが今日の郵便でございます。」執事が郵便物の山をキャンディに差し出した。
通常はジョルジュがチェックし、必要な物だけアルバートの手に渡るのだが今はジョルジュも一緒に出かけている。
キャンディは郵便物を受け取ると、居間でくつろぎながらチェックし始めた。
やがて、その中の一つが彼女の目に留まった。


差出人はニューヨークのストラスフォード劇団。
最近アードレー家がシカゴに建設した新しい劇場のこけら落としに、ストラスフォード劇団が「ハムレット」を出張公演するという案内とその招待状だった。

本来はシカゴの劇団が努めるはずであろうが、シカゴ市長とストラスフォード劇団のロバート・ハサウェイ団長が旧知の間柄ということで、今回の出張公演となったようだ。
公演日を見ると来月になっていた。

さらにキャスティングを見ると、当然のようにハムレット役にはテリュース・グレアムの名前が書かれてあった。


(ストラスフォード劇団が・・。テリィがシカゴにやって来るのね。けっきょく結婚式の時にも会えなかったし、本当に長い間会っていないわ。)
キャンディは懐かしさからしばらくその案内状を眺めていたが、やがて思い立ったように外出の準備を始めた。


「奥様、こちらが今度できた劇場でございます。」運転手のバーナードがそう案内する。
「ありがとう、バーナード。ここでいいわ。帰りは一人で大丈夫よ。」
「かしこまりました。ではお気をつけて、奥様。」
キャンディは車を降りると壮大な劇場の外観を眺めた。
(以前、やはりシカゴでストラスフォード劇団の慈善公演があったわね。あの時は『リア王』で、テリィはフランス王を演じていた。すれ違いばかりだったけど、最後に走り去る列車で一瞬だけ会えた。そして今回は『ハムレット』。それもアードレーの劇場で・・・。これも何かの縁かしら。)
キャンディは一人そんなことを思い出していた。が・・・。


その刹那。
まぼろしを見た・・・と思った。


「テリィ・・・。」


キャンディの驚きの眼差しの向うには、同じように信じられないといった表情の顔があった。


「キャンディ・・・。」