レイクウッドの森

アルバートファンによる不朽の名作「キャンディ・キャンディ」の二次創作ブログです。

花咲くポニーの丘で 最終話

別荘の一室でアルバートはメアリと向き合っていた。
アルバートは真剣な目でメアリを一瞥すると、キッパリと言った。

「私はシカゴへは戻りません。私が行く場所は他にあるのです」
アルバートの一瞥を受けたメアリは優雅な微笑を浮かべた。
「シカゴへ戻らないということがいったいどういうことなのか、あなたはおわかりですの?」
「メアリ嬢、申し訳ないが私はあなたと結婚することは出来ない」
アルバートは静かにそう言った。
「なぜですか?わたくしがお気に召しませんの?」
アルバートの拒絶の言葉にも取り乱すことはなかった。それが名家の令嬢として のプライドだったのかもしれない。
「いいえ、あなたは素晴らしい方です。あなたほどの方は相手が私でなくともきっと幸せになれる。ですが、私が幸せになれる相手はたった一人しかいないんです」
「お好きな方がいらっしゃるのね。わたくしもあなたでなければダメだと申し上げ たら?」メアリは挑むような目をアルバートに向けた。
「あなたと結婚しても私は幸せにはなれない。不幸な私と結婚してあなたは本当に幸せですか?」

(自分が幸せでなければ相手も幸せには出来ない・・。この方はそうおっしゃりたい のだわ)
二人の間にしばらくの沈黙があった。その沈黙を破ったのはメアリの方だった。
「わたくしの負けですわね。不幸なあなたのお顔を見ながら一生を過すほどの勇気はございません。本当のことを申しますと、こうなるような予感がありましたの。このままでよいのか、あなたのお気持ちを確かめに来たのかもしれませんわ。わたくしは偽りのあなたの愛を信じてすがるような、そんな惨めな女ではございませんわ。さぁ、どうぞお行きになって。あなたの行くべき場所へ・・」
「ありがとう。」
アルバートは深々と頭を下げ、静かに部屋を出て行った。


しばらくするとジョルジュが入って来た。
「ねぇ、ジョルジュ。あの方の本物の愛を一身に受けられる方って、いったいどんな方なのかしら」
「ひまわりのような方でいらっしゃいますよ。いつも太陽を一生懸命探しておられます」
 優しい眼差しでジョルジュが答える。
「まぁ、可愛い方なのね。わたくしは初めて誰かを羨ましいと思いましたわ」
そう言いながら、その美しい顔をそっと窓の外へ向けた。視線の先には車に乗り込むアルバートの姿があった。
「さぁ、メアリ様。シカゴまでお送りいたします」
「ありがとう、ジョルジュ」


 ~ポニーの丘~

日も暮れかけた頃。
「さぁ、いつまでもシュンとしてちゃいけないわ。キャンディ様は不死身なんだから。笑うのよ、キャンディ!」

そう自分に言い聞かせて木を降りようとしたその時、丘の向うから一台の車が走ってきた。
そして、車から降りてきた見覚えのある人影に心臓が飛び出そうになる。
それは今、ここにいるはずのない人。
「まさか!」

その人は駆けて来る、丘を登って。
金色の髪、青い目、優しい笑顔・・・わたしの王子さま。

アルバートさん!」
「キャンディ!」

 駆けて行く。
 2年前のあの時と同じように。

 手を伸ばす。そして、その大きな胸に思いっきり飛び込んだ。
(これは夢?)
いいえ、この懐かしいぬくもりは本物だわ。
本当に王子さまがやって来たのだ!

アルバートさん!どうしてここに?今日は婚約披露パーティの日でしょう?」
キャンディには信じられない。
「ああ、そうだよ。すっぽかしてきた。」そう言って「あはは・・。」と笑う。
「すっぽかした?ウソ!大丈夫なの?それより何ですっぽかしたのよ」

 混乱してわけのわからないキャンディ。
「う~ん、順番に答えると・・本当さ。それから、大丈夫かどうかはわからない。そして最後は・・・一番大切なものを手に入れるために。それが答えさ」
アルバートさん・・?」
「僕はお金も地位も名誉も何もいらないんだ。ただ、欲しかったのは自然の空気と自由だけ。若い頃は逃げ出すことばかり考えて放浪もしたが、今は跡取りとして生まれた責任と一族の繁栄のために、ずっとアードレー家の為に頑張ってきたつもりだ。そんな僕にどうしても手に入れたい、欲しいと思うものができたんだ」
アルバートは一つ息をする。
キャンディは瞬きもせず彼をみつめ、ただ黙って聞いていた。
「一時は諦めかけた。僕にはすぎた望みかもしれないと思ってね。一族の重圧に押し潰されそうになったこともあった。そんな僕の目を覚まさせてくれたのが僕の姉、ローズマリーの生前の言葉なんだ」

“ちっちゃなバート、あなたに自由に空を飛べる羽をあげたいわ。自分の人生を縛り付けてはダメよ。”

「僕がたった一つ望んだこと、それは・・・ずっと僕の横で君が笑っていてくれることだった。君といるとアードレー家の総帥ではなく、ただのアルバートでいられる んだよ。 放浪していた頃、僕の帰る場所は牢獄のようなアードレー家だった。でも今の僕にはもっと違う場所が必要なんだ、キャンディ」
そう言うと、そっと右手を差し出した。

「キャンディ、もし君がその場所になってくれるのなら、この手を取ってほしい」

いつもと変らないアルバートの優しい笑顔。その笑顔がキャンディの涙で霞む。
震える手をゆっくりと上げる・・そして、いつも彼女を温かく包んできたその手にそっと触れた。

この手はいつもそばにあった。
嬉しい時も悲しい時も、どんな時でも変らずそばにあったのだ。
今ならハッキリとわかる。
あまりに近くにありすぎて、気が付かなかっただけなのだ。

「おちびちゃん、君は泣いた顔より笑った顔の方が可愛いよ」

ビックリして見上げるキャンディの顔に優しいキスが降りてきた。

 額に、頬に、そして唇に・・・。


どれくらいの時間がたったのだろう。
言葉はいらない、穏やかな時間。ずっとこんな時を求めていたのだ。

「ねぇ、アルバートさん。さっき大丈夫かどうかわからないって言ったけど、これからどうするの?」
幸せすぎて、不安になる。
「メアリはわかってくれたよ。心配はいらない。パーティの方はジョルジュが上手く取り繕ってくれるだろう。大おばさまあたりは卒倒しているかもしれないけれどね」
そう言いながら小さなウィンクをした。

「周りはきっと僕が振られたってことで収まるんじゃないかい?しばらく僕は婚約直前で振られた、哀れな男を演じなければならないかもしれないね」
「ぶっ。何だかアルバートさん似合わないわ」キャンディが吹き出す。
「そうかい?良かった。あんまり嬉しい役じゃないからね。似合っていたら困るよ」
そう言ってアルバートも大きな声で笑い出した。
「あはは、そうね。でも大丈夫よ。だって私の王子さまはとびっきり素敵な人だもの」

ポニーの丘に二人の笑い声がこだまする。
ここは君のふるさと・・・。


~キャンディ、自分の足でしっかりと歩き始めた君。これからは共に歩んで行こう。
たとえどんなことがあろうとも、僕達は繋いだこの手を離しはしないだろう。~


                 ~ Fin ~

 
★このお話は漫画の原作と小説第三部の手紙によるその後の人々を参考に書きました。
アニメは考慮に入れていません。★